アップルの導入事例が他のIT企業と大きく異なる点は、大きく3点あります。
1.デバイスが主役であること
アップルは「ソリューションカンパニー」というより「デバイスカンパニー」であるため、自社のデバイスがいかに便利で高機能か、そして業務効率化に貢献するかを訴求しています。これは多くのIT企業のアプローチとは異なるものです。
IT企業の事例の多くは、いわゆる「ソリューション事例」であり、「特定の業務プロセス全体をどのように新規構築、または再構築したか」が焦点となります。そこでメインとなるのは、フロントエンドのデバイスではなく、「サーバーの配置」「データベースの選択」「データの流れ」「開発言語やフレームワーク」といった点です。フロントエンドのデバイスは主役ではありません。
アップルは魅力あるデバイス開発に特化し、デバイスと連携したソリューションはパートナー企業が各自展開すればよい、という考えに基づいているのかもしれません。これは、パートナーエコシステムを重視するグーグル、マイクロソフト、オラクル、AWSなどとは大きく異るアプローチです。
2.動画のみ、文章やシステム構成図がないこと
一般的なIT企業の事例は、「製品・サービスが『他の既存システム』とどのように連携して導入され、データがどのように流れているか」が重要になります。企業で導入されるIT製品サービスで、完全なスタンドアローンとして動作するものはないためです。
アップルの導入事例は「動画のみ」であり、他システムとの連携やシステム構成図が全く出てきません。現場でアップル製品を使っている人、現場がアップル製品を使えるようにする人はでてきて、「何が行われているか」が伝えられますが、「具体的にどのようなデータをどう連携させているか」についてはほとんど触れられていません。
3.社長が登場すること
最も特徴的な点と言えるかもしれません。
栃木銀行と東京メトロの両方の事例で、社長が登場してコメントを入れています。おそらく、「アップル導入事例には、顧客の社長を必ず登場させる」のが事例作成の条件となっていると考えられます。よって、「事例には登場してもよいが、CIOや役員止まり」の場合は全てお断りしているのではないかと推察します(このため、ネームバリューに劣る第二地銀である栃木銀行が登場したと思われます)。
これはアップルの営業担当者にとっては、なかなか大変な交渉ではないかと推察します。顧客担当者が「社長は無理でしたが、専務であればなんとか可能です」と調整してきてくれても、「すみません、社長を出せなければ、この話は忘れてください」とお断りしないといけないためです。