事例ファクトリー: 法人向け導入事例作成専門カンパニー

アップルの導入事例と戦略 [グローバル企業の事例活用]

グローバル企業がどのように導入事例を作成、活用しているかについて、分析するシリーズ「グローバル企業の事例活用」、第一弾はアップルです。

アップルの導入事例

アップルの導入事例は、法人向けのページである「Apple at Work」内に「成功事例」として掲載されています(2021年3月現在)。

アップルの売上の大半はiPhoneであり、iPhoneの売上の大半は一般消費者であることを考えると、アップルの法人向けビジネスの比率は大きくありません。しかし、アップルの2020年度売上高が2941億ドルであることを考えると、金額としては相当大きなものであることが推測できます。

なお、トップページから事例トップへのページ遷移は以下の通りです。

2021年3月現在、アップルホームページ(日本語)で表示されている事例は6社、うち2社が日本企業となります(栃木銀行、東京地下鉄)。今回は、日本の顧客が特に興味を持つ、日本企業の事例を掘り下げます。

  • 栃木銀行の事例は、「iPad Pro」と「Apple Pencil」を利用して、金融サービスの営業提案ならび契約締結を行っています。
  • 東京メトロは「iPad」と「iBeacon(相対位置測定機能)」を利用し、iPad上で動作する「MRSIアプリケーション」から、トンネルの検査箇所の特定・記録・報告を行っています。また、「iPad」を駅員の情報提供用としても用いています。

アップルの導入事例が特徴的な点

アップルの導入事例が他のIT企業と大きく異なる点は、大きく3点あります。

1.デバイスが主役であること

アップルは「ソリューションカンパニー」というより「デバイスカンパニー」であるため、自社のデバイスがいかに便利で高機能か、そして業務効率化に貢献するかを訴求しています。これは多くのIT企業のアプローチとは異なるものです。

IT企業の事例の多くは、いわゆる「ソリューション事例」であり、「特定の業務プロセス全体をどのように新規構築、または再構築したか」が焦点となります。そこでメインとなるのは、フロントエンドのデバイスではなく、「サーバーの配置」「データベースの選択」「データの流れ」「開発言語やフレームワーク」といった点です。フロントエンドのデバイスは主役ではありません。

アップルは魅力あるデバイス開発に特化し、デバイスと連携したソリューションはパートナー企業が各自展開すればよい、という考えに基づいているのかもしれません。これは、パートナーエコシステムを重視するグーグル、マイクロソフト、オラクル、AWSなどとは大きく異るアプローチです。

2.動画のみ、文章やシステム構成図がないこと

一般的なIT企業の事例は、「製品・サービスが『他の既存システム』とどのように連携して導入され、データがどのように流れているか」が重要になります。企業で導入されるIT製品サービスで、完全なスタンドアローンとして動作するものはないためです。

アップルの導入事例は「動画のみ」であり、他システムとの連携やシステム構成図が全く出てきません。現場でアップル製品を使っている人、現場がアップル製品を使えるようにする人はでてきて、「何が行われているか」が伝えられますが、「具体的にどのようなデータをどう連携させているか」についてはほとんど触れられていません。

3.社長が登場すること

最も特徴的な点と言えるかもしれません。

栃木銀行と東京メトロの両方の事例で、社長が登場してコメントを入れています。おそらく、「アップル導入事例には、顧客の社長を必ず登場させる」のが事例作成の条件となっていると考えられます。よって、「事例には登場してもよいが、CIOや役員止まり」の場合は全てお断りしているのではないかと推察します(このため、ネームバリューに劣る第二地銀である栃木銀行が登場したと思われます)。

これはアップルの営業担当者にとっては、なかなか大変な交渉ではないかと推察します。顧客担当者が「社長は無理でしたが、専務であればなんとか可能です」と調整してきてくれても、「すみません、社長を出せなければ、この話は忘れてください」とお断りしないといけないためです。

アップルの導入事例から参考にできること

アップルの導入事例から参考にできることは、ほとんどない、と言えます。これはアップルの特殊な立ち位置に由来します。

  • 世界第一位の時価総額企業 (2021/3現在)
  • 世界で(おそらく)最も人気のあるITデバイスを作っている企業
  • 世界で(おそらく)最もイメージ戦略に成功しているIT企業
  • 消費者向け売上が大半で、法人向け売上が少ないIT企業

アップルの事例はこうした事実の上で事例を作っています。

一般的な会社であれば、「お客様がどのようにアップル製品を使って価値を生み出しているかを詳しく知って、参考にした上で、お問い合わせしてきてほしい」となります。事実を積み上げて説得するタイプの事例です。

しかしアップルの導入事例は、「より感情に訴える、イメージ戦略の一環として行われる事例」です。事例動画を見終わると、法人向けの事例なのに、個人向けのイメージ広告のような印象を受けます。

普通に法人向けビジネスを行っているIT企業が、アップルの事例を真似して導入事例を作ってみたところで、見込み客には「よく分からない」と思われるだけで、問い合わせ数の増加には全くつながらないと思われます。

アップルの導入事例が「悪い」わけではありません。しかし、「特殊過ぎて、このやり方を真似しても役に立たない」「このやり方で(イメージ戦略として)効果があると判断できるのはアップルだけ」と言えるのではないでしょうか。

執筆者: 村岡 英一 (事例ファクトリー代表)

 

慶応大学卒業後、日本マイクロソフトにて金融機関向け営業、社内情報システム部門 (MSIT) にて6現地法人のCRMを担当。

その後、ブランコ・ジャパンにて国内・海外3か国の営業ならびインド子会社製品の日本市場投入を担当。

2015年にユニファイ株式会社を設立し、法人向けオンラ インマーケティングを担当。支援企業の非対面チャネルで の集客・コンバージョン (CV) 増加を実現。事例ファクトリー代表としても数多くの事例を執筆。

[無料] 事例作成と活用に関する資料ダウンロード

導入事例とはそもそもどのような位置づけのものか、どのように作ればよいか、どのように活用すればよいかについて、全てのノウハウを凝縮した資料を公開しています。ぜひ、無料でダウンロードください。

事例作成についてお問合せください

お客様がやりたい内容をぜひお知らせください。一生懸命対応させていただきます。