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アマゾン (AWS) の導入事例と戦略 [グローバル企業の事例活用]

グローバル企業がどのように導入事例を作成、活用しているかを分析し、自社の導入事例に役立てるシリーズ「グローバル企業の事例活用」、第4回はアマゾンのクラウドプラットフォーム部門である Amazon Web Services (AWS) です。

AWSの導入事例

AWSの導入事例は、AWSトップメニュー下の「すべてのお客様事例はこちら」をクリックすると表示されます。なお、アメリカ版を表示するにはグローバルメニューを「英語」に設定する必要があります。 AWSは企業や官公庁などの組織に対するクラウド基盤提供がビジネスで、「AWSを使って個人でサービスを立ち上げている」という一部の例外を除き、ほぼ企業・組織向けのサービスです。 2021年5月現在、AWSホームページ(日本語)の事例構成は以下のようになっています。
  • 事例トップページ
    • https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies-jp/
      • 最上部には「Featured Story」任天堂とDeNAの「マリオカート ツアー」事例(客寄せパンダ的な事例)
      • 2段目に「AWS Leader’s Voice」として、AWS導入企業の役員やキーパーソン取材内容を掲載
      • 3段目は「最新の国内ユーザー事例」として、スライダーで国内企業事例を表示
      • 4段目に「最新のSaaS on AWS事例」として、SaaS事業者がAWSを基盤として利用している事例をスライダーで表示
      • 5段目に「お客様インタビュー」として、6社のビデオインタビューを表示
      • 6段目に「国内導入事例一覧」として、横6列、縦5行(30社)の会社ロゴ(各事例へのリンクつき)を表示
      • 6段目下に「日本国内・海外すべての導入事例を見る」のリンクがある
        • おすすめの事例17件が掲載。このうち15社が日本企業
    • 全てのお客様の成功事例
      • https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/all/
        • 日本語に翻訳されている事例を確認可能
          • フィルタは「ビッグデータ」「エンタープライズ」「政府機関、教育、非営利組織」「スタートアップ」「ウェブアプリケーションとモバイルアプリケーション」の5項目から選択可能
          • しかし、2021/5/26現在、このフィルタは正しく機能していない(事例トップに戻ってしまう)
          • 掲載されている事例は数百件
          • 事例作成年と月の記載なし

AWSの導入事例が特徴的な点

AWSの導入事例が特徴的な点は以下の3点です。

1.想定読者を絞っている

AWS事例で最も特徴的な点がこちらです。

一般的なIT企業の事例は、想定読者として「経営層」「IT部門管理職」「IT部門担当者」「IT部門以外の関連部門」を置いています。この中には、大きく分けて以下の3タイプの人がいます。

  • 技術的な内容を理解し、実際に実装や管理を行う人(主にエンジニア)
  • 技術的な内容をある程度理解できる人(エンジニア・非エンジニア)
  • 技術的な内容を全く理解できない人(非エンジニア)

AWSの事例は、この中で「技術的な内容を全く理解できない人」を無視して、詳細の技術的な内容を事例に含めている点です。例えば、以下のような内容です。

このような内容を読んで「全て理解できる人」「少しは理解できる人」「全く理解出来ない人」がいますが、AWSはおそらく、「全て理解できる人と、少しは理解できる人が理解できればよい」として、あまり手加減しない内容としています。

多くのIT企業では、「経営層や技術的に詳しくない人も、一読して理解できること」を目的に、技術的な詳細を省いて平易な内容にしていますが、AWSはそうしていません。ある意味、事例読者の割り切りを行っているといえます。

2.多額の予算をかけている

AWS事例ページは、多くの点で圧倒的といってよいでしょう。

  • 掲載事例数(日本語)が数百件
  • 経営者、役員、CIOなどのキーマンインタビューコンテンツ
  • ビデオ
  • 導入事例とは別に、AWSのトレーニングを活用した事例を掲載

事例トップページは、一般的な企業の事例ページというよりは、メディアに近い雰囲気があります。おそらく、事例関連のほぼ専任の担当者がおり、国内で大量のコンテンツを作成しているものと思われます。

3.事例内で自社イベントの動画を利用している

「確かに、これは賢いな」と思った点です。

例えば、トヨタ自動車の関連会社である「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社(TRI-AD)」の事例では、動画が掲載されています。

この動画は、TRI-ADの役員がAWS自社イベントで講演したものをそのまま配信しています。詳しい内容を理解したい人にとっては、こうした動画は役に立ちます。

イベント講演録画などはイベント直後以外は見られることが少ないため、死蔵されているコンテンツの活用としても効果的です。

AWSの導入事例から参考にできること

AWSの事例から参考にできることは、以下となります。

想定読者のレベルを調節する

 

すべての事例の内容を「誰が読んでも理解できる」というレベルに設定すると、「ある程度スキルのある人」からすると「平易で薄っぺらい内容」と思われてしまいかねません。

よって、AWSの事例のように「想定読者のレベルを上げる」ことは一つの対策となります。これは、「読んで分からない人がいても、そうした人向けのコンテンツではないので、問題ない」という割り切りが必要となります。

 

過去のコンテンツを流用する

 

自社で作成したスライド、動画、講演資料など、「イベントやキャンペーンで一度使ったきりだが、内容的には面白い」ものを、事例とともに掲載し、読者の理解を高めます。

この方法には、「事例と同様に、登録なしで読めるようにする」方法と、「事例内で告知し、フォーム入力者のみに提供する」方法の2つがあります。

どちらが正解、というよりは、「提供するコンテンツのレベル感に合わせて、方法を使い分ける」のが効果的でしょう。

 

動画を利用する

 

B2Bマーケティングにおける動画利用(事例インタビュー動画など)は、いまだ意見が別れています。

例えば、YouTubeなどで「B2B企業の公式チャンネル」などを見ると、大半の動画の閲覧数が非常に少ない(数百件、数千件程度)であることが分かるかと思います。

事例の動画化は、通常のテキストの事例と比べて情報量が少なくなりますが、作成コストは安価ではありません。よって、「コストかけて作っても、あまり見られないので、効果が薄いのではないか」と考えられがちです。しかし、スマートフォンの普及により「移動中などに事例を『聞く』」というニーズもあると言われています。

いきなり全ての事例で動画コンテンツを作る必要は、おそらくありません。特に重要な事例、特に多くのアクセスが見込める事例に関してのみ、通常の事例と、事例動画の両方を作って、反応を見てみるのが良いでしょう。これであれば、うまくいかなかった場合でもコストは最小限で済みます。

まとめ

AWSは、アマゾンの小売部門と比べて、その利益率の高さで有名です。

がっつり稼いだ利益を、事例作成を含めたマーケティングに大量投下し、新たな顧客の獲得と既存顧客へのクロスセルを同時に行っている「王者の強み」を感じました。

また、すべての事例において「ある程度の技術力がある読者を対象する」という作成方針も明確で、「技術力がある人にとって、AWSの価値が明確に理解できる」ように設計されています。この点も素晴らしいです。

残念だったのは、全事例掲載ページのフィルタが機能していない点くらいで、この点は早々に修正していただければと思います。

執筆者: 村岡 英一 (事例ファクトリー代表)


慶応大学卒業後、日本マイクロソフトにて金融機関向け営業、社内情報システム部門 (MSIT) にて6現地法人のCRMを担当。

その後、ブランコ・ジャパンにて国内・海外3か国の営業ならびインド子会社製品の日本市場投入を担当。

2015年にユニファイ株式会社を設立し、法人向けオンラインマーケティングを担当。
支援企業の非対面チャネルで の集客・コンバージョン (CV) 増加を実現。事例ファクトリー代表としても数多くの事例を執筆。

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