[質問] 導入事例はどのような構成にすべきか
本コラムでは、お客様から頂いた質問を、企業が特定されないように一部修正したうえで、回答したいと思います。
ご質問内容
当社はITスタートアップで創業2年目です。主力製品のユーザーが増加してきたので、導入事例作成を検討しています。
そこで質問ですが、導入事例はどのような構成にするのがよいでしょうか。お知らせください。
回答
導入事例は、6パートでの構成を推奨しています。
- 会社紹介
- 検討の背景
- 選択理由
- 導入プロセス
- 導入効果
- 今後の展望
1.会社紹介
導入事例を作成する際、読者は基本的に「事例掲載企業について何も知らない」という前提で執筆します。よって、以下の情報を盛り込む必要があります。
- 会社名
- 本社住所
- 事業内容
- 事業の強みや特徴
事例内容が始まる前に、「なるほど、A株式会社は、東京に本社がある会社で、特にセンサーなどの製品を多数販売する商社で、国内最大手なのか」という事実を、読者に伝えて理解してもらいましょう。ただ、この内容はあくまで導入部なので、字数を多くしすぎるのは逆効果です。
2.検討の背景
製品やサービスを新たに導入する場合、「コスト削減」「人員削減」「サポート切れ」「ブラックボックスの解消」「性能の向上」「新サービスの開発」など、様々な検討理由があります。
この検討の背景を、いかに掘り下げて事例に盛り込むかは非常に重要です。よくある「間違った事例の書き方」はこちらです。
- 「A社は、人員増加に伴い、人事クラウドサービスの検討を開始した」
これだと、「人員が増加した結果、どのような問題が生じ、その問題を現在の体制ではなぜ解決できなかったのか」が全くわかりません。「なぜ」の部分がおろそかになると、事例を読む人の共感を呼び起こしません。よって、以下のように修正すべきです。
- A社は、2017年当時は15人の会社だったが、主力取扱製品であるセンサーの需要が急拡大したことに伴い、販売陣容を大きく拡充した結果、2020年には100人を超える従業員を抱えるほど成長しました。
- しかし、急成長の結果、管理職の部下に対する人事評価や指導が属人的となっているという問題ががありました。
- 今後のさらなる成長の土台固めのため、管理職による評価や育成を統合的に支援するサービスの検討に開始しました
ここでは、「15人から100人に人員が増えたこと」「人員が増えた結果、管理職の部下管理が属人的となり問題が生じたこと」「この問題を解決するために、人事クラウドサービスの検討を開始したこと」が記されています。この事例は、「組織が拡大した結果、人員の管理に悩む企業の経営陣や人事担当者」がターゲットとなり、こうした層に共感を呼び起こす方向性で作成されます。
3.選択理由
まずはダメな例を見てみましょう。
- 「比較検討を行った結果、総合的にBサービスが最善という結果となりました」
これは、「何か伝えているようで、何も伝えていない文章」です。そもそも最善と判断されたのだから、採用されたわけです。なぜ最善と判断したのか、は最低限必要な情報です。以下のように修正すべきです。
- 検討は2020年4月から開始され、2ヶ月の検討とテスト利用により、3製品に絞られました。
- Bサービス以外にも、コスト面で競争力がある製品や、製品機能が多くあるサービスがあったが、A社は『トラブル発生時の問題解決能力』『全技術ドキュメントの日本語提供』『機能追加リクエストへの柔軟な対応』の3点を評価し、Bサービスの導入を決定しました。
ここでは、Bサービスならび運営企業の強みが明確に打ち出されています。つまり、「価格はそこまで安くないし、機能が非常に多いわけではないが、『サポート』『日本語』『リクエスト対応』が評価され導入に至った」ということです。
ここでは競合の名前は出されていません。しかし、真剣に人事サービスを検討している人がこの事例を読むと、「コストが安いといえば、あの会社かな」「機能が豊富といえば、あの会社かな」とある程度の推測ができます。
また、検討開始月や検討期間もあると、他のユーザーの参考になります。
4.導入プロセス
「ネットで注文すれば、翌日には到着してすぐ使える」ような製品であれば、導入プロセスの解説は不要ですが、ここでは、クラウドサービス導入の事例を仮定しているので、プロセス紹介は必須です。
ダメな例は、以下のような記述です。
- 「導入はスムーズに進み、すぐに活用されるようになりました」
ダメな例では、「導入プロセスが発生する製品で、導入がスムーズに進んだ理由」が書かれていません。「なぜスムーズだったのか」を深堀りすると、以下のようなコメントが得られるはずです。
- テスト段階で導入支援をしてくれたおかげで、本番はスムーズに進んだ
- 優れたUI/UXのおかげで、導入は簡単に進められた
- 導入時に発生する面倒ごとを、全てBサービスのスタッフが無償で対応してくれた
- 有償の導入支援サービスを利用し、ほぼ丸投げで進められた
- 情報システム部門向け、またユーザー向けマニュアルがよく整備されていた
このように、事例作成においては「なぜそうなったのか」の掘り下げが全てといっても過言ではないほど重要です。
5.導入効果
導入効果の表現は非常に重要です。まずはダメな事例から見てみましょう。
- 情報システム部主任の田中氏は、「Bサービスはコストパフォーマンスが高い製品だと感じました。非常に素晴らしい製品だと感じています」とコメントしています。
この記載がまずい理由は、「数値がなく抽象的」であることです。製品導入の効果について、読み手に伝わる記載方法として、「4つのアップと2つのダウン」の整理があります。
すなわち「売上アップ」「利益アップ」「安全性アップ」「スピードアップ」、ならび「工数ダウン」「コストダウン」です。上記の田中氏のコメントを掘り下げると、おそらくこのような回答が得られるはずです。
- 情報システム部主任の田中氏は、Bサービスの導入効果を以下のように語りました。
- 「Bサービスの導入により、『管理職の8割以上が人事評価を公正に行えるようになった』『一般従業員の7割以上が、以前より人事評価に納得できた』と回答しています。公正な人事評価は、会社の背骨のようなものなので、この部分がしっかりしていることは、会社の成長にとって必要不可欠です。
- また、人事評価に費やす時間をおよそ30%削減できました。管理職10人と経営陣の時間を30%削減し、より生産的な業務に費やすことができたため、数百万円から数千万円のコスト効果があったと言えるのではないでしょうか」
4つのアップと2つのダウンの観点だと、この事例は「安全性アップ」と「工数ダウン」です(なお、安全性アップは、「組織を安全に運営できる可能性が高まった」ことを意味します)。そして、工数ダウンを人件費に換算して、「実際のコストが減ったわけではないが、計算上はこれだけのコスト効果があった」と指摘しています。
数字を入れて具体性を増すことで、事例自体の説得力を高めています。
6.今後の展望
今後の展望とは、「今後は別な機能も使う予定」「対象ユーザーや組織を広げたい」「別な有償オプションを検討したい」といった内容で、現在利用している製品・機能を広げる&深める内容となります。
これにより、例えば「大手企業が導入したが、10機能のうち1機能しか利用できていない」ような場合でも、「現在はあくまでステップ1で、今後はさらに導入を広げて深めていく」ことを読者に印象付けられます。
なお、ネームバリューのある導入企業の事例を作成してから数年間が経過した場合、導入時に「今後の展望」として記載されていた内容が、現在は利用・導入されている場合があります。もしこうした顧客がいた場合は、事例のアップデートを行うのが効果的です。
以上の内容を、貴社の事例作成の構成としてお役立ていただければ幸いです。なお、事例作成の詳細についてもっとお知りになりたい方は、こちらの無料ダウンロード資料をダウンロードし、ご一読いただければと存じます。

執筆者: 村岡 英一 (事例ファクトリー代表)

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