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マイクロソフトの導入事例と戦略 [グローバル企業の事例活用]

グローバル企業がどのように導入事例を作成、活用しているかを分析し、自社の導入事例に役立てるシリーズ「グローバル企業の事例活用」、第2回はマイクロソフトです。

マイクロソフトの導入事例

2021年4月現在、マイクロソフトの売上の過半数は企業向けであるため、法人ビジネスはマイクロソフトの主戦場です(個人向けビジネスが主戦場のアップルとは大きく異なります)。マイクロソフトの導入事例は、「お客様事例」ページが独立して作成され、多数の事例が掲載されています(2021年4月現在)。

ちなみに、公式トップページから、導入事例トップページへのリンクや分かりやすい遷移は提供されていません。事例を見たいユーザーはトップから遷移せずに「マイクロソフト 事例」などで直接検索流入すると想定しているようです。

2021年4月現在、マイクロソフトホームページ(日本語)で表示されている事例は177社、その大多数が日本企業の事例です。特徴的な事例をいくつか取り上げます。

  • 三菱電機のDX事例。ビジネススタイル変革をMicrosoft Teamsで実現。
  • KMSは、PaaSのみでゲームサーバーを構築し、リソースをゲーム開発に集中。
  • エムオーテックスは、Teamsとの連携によるFAQチャットボットを提供。
  • NTTコムウェアは、働き方改革の一貫としてSurface Proを導入。

以下で解説します。

マイクロソフトの導入事例が特徴的な点

マイクロソフトの導入事例が特徴的な点を3点解説します。

1.導入事例は「ソリューション」「クラウド」「パートナー」「デバイス」の4本柱であること

マイクロソフトは「ソリューションカンパニー」です。マイクロソフトが提供する「製品・サービス」を組み合わせて、顧客の問題を解決することを目指しています。これは、アップルが、優れたデバイスを開発・提供する「デバイスカンパニー」であるのと対象的です。

マイクロソフトは大きく分けて4タイプの事例を作っています。

1つめは、「ソリューション事例」です。顧客企業の課題をマイクロソフトの製品・サービスを利用して解決した、という事例です。これを、超大手企業から中小企業まで、また自動車・製造・金融・公共・教育など多数の業界に渡り作成しています。対象とする読者は、エンドユーザー企業の情報システム部門やビジネス部門、経営層と推察できます。上記の三菱電機事例が該当します。

当社では、事例作成をお手伝いする企業様に対して、「対象とする企業規模を縦軸に、業界を横軸にとって、この網羅性を意識して事例を作成すべき」とお伝えしています。マイクロソフトのソリューション事例は、まさにこれを圧倒的な数で網羅している印象です。

参考リンク:  [質問] 取引先に有名企業がいないが、事例の効果はあるか

2つめは、「クラウド事例」です。マイクロソフトの社運をかけたクラウド事業「Azure」は、すでに売上面でも、利益面でも巨大な柱になるまで成長しました。Azureを使ってクラウドサービスを構築したい企業に特化した事例も多数作成しています。対象となる読者は、エンドユーザー企業の情報システム部門ならび、SaaSやオンラインサービスを提供する開発企業や事業者です。上記のKMS事例が該当します。

3つめは、「パートナー事例」です。マイクロソフトは、開発パートナーを多数育成した「パートナーエコシステム」が成熟している点が強みとなります。よって、パートナー企業がマイクロソフトテクノロジーを使って事業を開始した、という事例が定期的に必要となります。上記のエムオーテックス事例が該当します。

4つめは、「デバイス事例」です。Surfaceシリーズの企業導入事例がメインです。デバイス導入に加えて、マイクロソフトのテクノロジーを併用して、安全かつ高い生産性をアピールしています。上記のNTTコムウェアコムウェア事例が該当します。

2.一般的な構成であること

IT企業の事例で一般的なものは、「会社紹介」「課題紹介」「解決方法の選択」「テスト・導入」「結果・効果・展望」という流れで、「システム構成図」「関わった社員の顔写真」があるものです。

マイクロソフトの事例は、この一般的なIT企業事例フォーマットを踏襲しています。読者からすると、「構成が分かりやすく、必要な情報がカバーされており、読みやすい」印象です。

3.事例作成数が多い

2020年の事例件数を見ると、140本以上の事例が作成されていました。これは、日本中の企業の中で最多レベルで大きいのではないでしょうか。3日に1本以上作っているのは驚異的なペースです。

「ソリューション」「クラウド」「パートナー」「デバイス」のカテゴリーを網羅し、業界や異なる企業サイズごとに事例を作ると、これだけの数になるのでしょう。しかし、圧倒的です。

マイクロソフトの導入事例から参考にできること

マイクロソフトの導入事例から参考にできることは、3つあります。

1.数=網羅性が重要であること

マイクロソフトは、2020年は年間140本以上の事例を作成しています。そして、この本数の大半は日本で作られたものです。海外で作られた事例の翻訳は圧倒的に少数です(5%未満)。

これだけの本数を作っているということは、事例作成に関してミッションを持っている社員が複数おり、計画的に事例を作成(生産)していることがわかります。

幅広い業界や企業規模に対して網羅的にアピールしたい場合は、事例の本数を増やすのは有効です。「アピールが抜けている業界・企業規模がないか」を探し、その穴を埋めていければ、網羅性が高まります。

2.PDFダウンロードを提供していること

マイクロソフトの全ての事例は、PDFダウンロード版でも入手可能です。PDFダウンロード時に個人情報の入力は不要です。

知名度が低く、マーケティングアプローチ中心で、少しでもリードを獲得したい企業からすると、PDFダウンロード時に個人情報を取得したいところです。しかし、マイクロソフトは知名度も高く、「製品を全く使っていない企業はない」といえるほど普及しています。よって、導入事例資料からのリード獲得は必要ないと判断しているようです(製品の評価版など、別にリード獲得できるポイントが多数あります)。

もし貴社が、リード獲得ポイントが別にあるのであれば、PDFダウンロード資料からのリード獲得を重視する必要はありません。逆に、少しでもリード獲得ポイントを増やしたいという場合は、PDFダウンロードをリード獲得ポイントとしてもよいでしょう。

3.タグを表示していること

例えば、日産自動車がマイクロソフト製タブレットを導入した事例の左側には、以下のようなタグが表示されています。

ここには、組織名、導入された製品・サービス、業界、組織規模、国、PDFダウンロードリンクがまとめて表示されています。訪問者が例えば、「Microsoft Intune」に興味があれば、ここから別なIntune導入ユーザーの事例を確認しに行けます。シンプルですが、サイト内の回遊性の向上に貢献しています。

もし、貴社の事例でこうしたタグが設置されていない場合は、設置をおすすめします。仮に効果がさほど大きくなかったとしても、タグを追加する工数はごくわずかです。

まとめ

マイクロソフトの事例は「米国企業の日本法人だからといって、本国の事例には頼らず、日本の顧客が欲しい事例を自分たちで大量生産する」という、日本法人のマーケティング担当者の強い意思を感じるものでした。

事例ページトップに表示されている「注目の事例」をみると分かります。日本とアメリカで全く重複がありません(なお、日本事例の8件中1件は海外事例です)。それだけ、日本法人が一生懸命独自に事例を作成していることが分かります。

IT業界は陳腐化が激しいため、古い事例をそのまま掲載し続けることはできません(ちなみにマイクロソフト日本語事例ページに掲載されている、最も古い事例は2017年5月の海外事例でした。記事執筆時点で3年11ヶ月前です)。

「大量に事例を生産しても、たった3~4年程度しか使えない」と見ると、コストパフォーマンスが悪いように感じます。しかし、IT企業で5年以上前の事例が延々と掲載されていると、「この会社は新しい導入事例が少ないのかな」「製品・サービスはどうも古そうだ」と思ってしまうこともあります。

製品サービスの進化が早い業界は、数年で事例はリタイアさせる、その代わりに常に新しい事例を作り続ける。これがよい戦略かもしれません。

執筆者: 村岡 英一 (事例ファクトリー代表)

 

慶応大学卒業後、日本マイクロソフトにて金融機関向け営業、社内情報システム部門 (MSIT) にて6現地法人のCRMを担当。

その後、ブランコ・ジャパンにて国内・海外3か国の営業ならびインド子会社製品の日本市場投入を担当。

2015年にユニファイ株式会社を設立し、法人向けオンラ インマーケティングを担当。支援企業の非対面チャネルで の集客・コンバージョン (CV) 増加を実現。事例ファクトリー代表としても数多くの事例を執筆。

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