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オラクルの導入事例と戦略 [グローバル企業の事例活用]

グローバル企業がどのように導入事例を作成、活用しているかを分析し、自社の導入事例に役立てるシリーズ「グローバル企業の事例活用」、第3回はオラクルです。

オラクルの導入事例

オラクルの導入事例は、トップメニュー上部の「リソース」から、「顧客事例の紹介」をクリックした先のページに掲載されています。 オラクルのビジネスは100%企業向けで、個人向けビジネスはありません。よって、企業に対するマーケティングが主戦場となっています。 2021年5月現在、オラクルホームページ(日本語)の事例構成は以下のようになっています。

オラクルの導入事例が特徴的な点

オラクルの導入事例が特徴的な点は以下の5点です。

1.事例トップに「おすすめ事例」を掲載し注力製品に誘導

オラクルは、データベースやエンタープライズアプリケーションにおいては「巨人」です。しかし、IaaSやPaaSといったクラウドインフラ提供ベンダーとしては、オラクルはAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platformの後塵を拝しています。

このため、現在「クラウドプラットフォームベンダーとしてのオラクル」というメッセージを強く訴求しています。事例トップページもこの流れに沿っており、掲載17事例の過半数が「Oracle Cloud」事例となっています。

また、おすすめ事例の17社中15社を日本企業の事例とし、日本企業目線で興味を引く事例を優先表示させるのは好印象です。

2.「一言だけ事例」を掲載している

導入事例というと、「会社概要」「課題」「検討」「採用」「テスト」「本番導入」といった流れで、インタビュー形式で記事が作成されるのが一般的です。

しかし、オラクルの事例では、以下のような「一言だけ事例」が掲載されています。

この「一言だけ事例」は、「誰が、何を導入したか。そして効果に関する一言コメント」だけが記載されている事例です。これ以上の内容はありません。

一般的な事例でなく、一言だけ事例が作成される背景には、以下のような事情が(いずれか1つ、または両方)あると推察します。

  • (1)(オラクルとして)事例作成予算がない
  • (2) 顧客が事例作成に協力してくれない
    • この場合、「一般的な事例」は作れないので、「一言だけ事例」を作成して、ホームページ上に掲載している。

通常、「予算がない」「協力してくれない」場合は、事例作成自体を諦めざるを得ない場合が多いですが、「ネームバリュー」や「導入製品または利用方法」の観点から高い価値があると判断した場合は、「一言だけ事例」としているのでしょう。

「事例取材は協力できません」と言われた場合でも、メールで100字程度のコメントを書くのであれば、負担は大きくありません。

この方法はある意味、苦肉の策ではあり、積極的に推奨できる内容ではありません。しかし、どうしても一般的な事例化は出来ないが、特にアピールしたい顧客や内容がある場合は有効です。

3.日本企業の事例が大半(だった)

2020年8月以前に作成された事例は、日本法人が作成したと思われる、日本企業の事例が大半となっています。

別なコラム「マイクロソフトの導入事例と戦略」でも紹介いたしましたが、おそらく日本法人に事例作成予算が割り振られており、現地法人主導の事例作成が推進されていたのだと推察できます。

残念ながら、2020年9月以降の事例は全て、グローバルで作成した海外企業事例の日本語訳のみとなっています。アメリカ版サイトでは引き続き多数の事例が作成されていることから、おそらく以下の事情があったと推察します。

  • 1.現地法人のマーケティング予算削減から、事例作成が行えなくなった
  • 2.事例作成を本社に集約し、日本語事例作成が滞った

おそらく、日本オラクルのマーケティング担当者、営業企画担当者からすると「事例作成に値する製品サービスの採用が多数あるのに、事例化出来ないのは悔しい」と思っているのではないでしょうか。

再び予算がついて、日本法人主導の事例作成が再開されることを祈っております。

4.詳細のフィルターを設け絞り込みを容易に

トップページから「最新の国内ユーザー事例」をクリックすると、事例をフィルターで検索しやすくなっています。具体的にはこのようなフィルターが備わっています。

  • Solutions
    • AI,ビッグデータ、クラウド、データセンターなど
  • Industry
    • 自動車、化学、通信、建設、消費財など
  • Products
    • アプリケーション、クラウド、データベース、ミドルウェアな
  • Region
    • APAC、EMEA-、JAPAN、North Americaなど
  • Country
    • 日本、韓国、アメリカ合衆国、イギリスなど
  • Language
    • アラビア語、英語、日本語、韓国語、中国語など
  • Asset Type
    • ケーススタディー、サクセスストーリー、カスタマービデオなど
  • Company Size
    • Enterprise、Midsize、Small
  • Revenue
    • 1億ドル未満から500億ドル超を売上額ごとの刻みで選択可能
  • Most Recent
    • 今週、今月、過去6ヶ月、過去12ヶ月、過去18ヶ月、18ヶ月より前

このフィルター機能により、「特定製品の新機能が使われた事例がないかを探したい」「日本の金融業界での日本語事例だけを探したい」「移動中なので日本語のビデオ事例だけを探したい」といった検索ニーズを満たすことができます。

残念な点は、このページはオラクル本社管理のため、フィルターが全て英語で表示されている点です。英語が苦手な方はフィルターを使うのが手間取るかもしれません。

5.事例は7年で掲載終了

当社で2021年5月26日に確認した、オラクルの日本語事例件数は168件、そして最も古い事例は2014年5月29日でした。

これから推察するに、「事例掲載日から7年経過すると、自動的に非表示になる」設定がなされているようです。

古い事例の多くは、以下のような問題があります。

  • 既に他の顧客に乗り換えており、現在は全く使っていない
  • 製品の古いバージョンでの内容が掲載されている
  • 現在利用していない製品が掲載されている
  • 実情に即していない(既に利用方法、適用範囲などが変わっている)
  • 提供しているソリューションが古い(現在ならよりよい方法を提示できる)

マーケティング担当者に「今後も掲載し続けたほうがよいか、どうか」という判断をさせず、「一律7年間掲載、以後非表示」とするのは、事例をフレッシュに保つ良い工夫です。

オラクルの導入事例から参考にできること

オラクルの事例から参考にできることは、以下となります。

一般的な事例が作れない場合は、「一言だけ事例」でもいいから作る

「有名企業だが、事例化を断られた」「優れた製品利用なのに、事例化を断られた」「顧客に事例作成を打診できそうだが、予算がない」といった場合に取る手法です。

「一言だけ事例」は、顧客のコメントを一言載せてあるだけの事例なので、これを読んだ人は「導入社名」と「なんとなくの概要」程度の理解しか持ちえません。しかし、一言だけ事例であっても「ないよりはまし」です。

顧客が必要な事例を探しやすいようにフィルターを設ける

ホームページにフィルターを作成する場合は、一般的にバックエンドのデータベースが必要となります。もし、ある程度の数の事例(50件以上)があるのであれば、フィルターの設置を推奨します。

予算的、またはサイトの設計上フィルターの設置が難しい場合は、各記事にタグを設けるだけでも、絞り込みが可能です。タグを付与するのは、Wordpressベースのサイトでも可能なので、検討をおすすめします。

事例掲載終了の期限を一律で設ける

事例作成日から年月が経過すると、事例が現状に即していないことが増えます。結果、顧客からすると「古すぎて参考にならない」「この時代にこのような提案をするのか」と判断され、事例掲載が逆効果に働くことも考えられます。

これを避けるために、事例掲載終了の期限をあらかじめ設けることで、古い事例は一律で掲載されないようになり、事例を見に来た顧客をがっかりさせずに済むようになります。

もし掲載終了した事例に、いまだ価値があるのであれば、現在からの目線で事例を再作成すればよいでしょう。事例掲載内容をアップデートすることもできるため、事例としての価値が再び上がります。

もし、事例掲載終了期限を設けていない企業があれば、ぜひ「うちの会社だと何年で掲載終了にすればよいか」を考えてみると良いでしょう。

まとめ

オラクルの事例は、「一言だけ事例でも良いから作る」という割り切りの良さ(ならび、断られても諦めない強さ)が垣間見えました。反面、本社の一存で現地法人主導の事例作成予算が止められたのではないか、と推察せざるを得ない「外資系企業らしさ」も感じました。

日本オラクルは、東証一部に上場し売上高2000億以上を誇る大企業です。おそらく、日本オラクルを経由しない売上(本社や租税回避地に直接売上が上がる)契約があるだろうことを考えると、日本での事業規模はより大きいことが推察されます。

ぜひ、再び日本での事例作成を復活し、日本企業の優れた事例を国内外に発信いただければと存じます。

執筆者: 村岡 英一 (事例ファクトリー代表)

 

慶応大学卒業後、日本マイクロソフトにて金融機関向け営業、社内情報システム部門 (MSIT) にて6現地法人のCRMを担当。

その後、ブランコ・ジャパンにて国内・海外3か国の営業ならびインド子会社製品の日本市場投入を担当。

2015年にユニファイ株式会社を設立し、法人向けオンラ インマーケティングを担当。支援企業の非対面チャネルで の集客・コンバージョン (CV) 増加を実現。事例ファクトリー代表としても数多くの事例を執筆。

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