オラクルの導入事例が特徴的な点は以下の5点です。
1.事例トップに「おすすめ事例」を掲載し注力製品に誘導
オラクルは、データベースやエンタープライズアプリケーションにおいては「巨人」です。しかし、IaaSやPaaSといったクラウドインフラ提供ベンダーとしては、オラクルはAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platformの後塵を拝しています。
このため、現在「クラウドプラットフォームベンダーとしてのオラクル」というメッセージを強く訴求しています。事例トップページもこの流れに沿っており、掲載17事例の過半数が「Oracle Cloud」事例となっています。
また、おすすめ事例の17社中15社を日本企業の事例とし、日本企業目線で興味を引く事例を優先表示させるのは好印象です。
2.「一言だけ事例」を掲載している
導入事例というと、「会社概要」「課題」「検討」「採用」「テスト」「本番導入」といった流れで、インタビュー形式で記事が作成されるのが一般的です。
しかし、オラクルの事例では、以下のような「一言だけ事例」が掲載されています。
この「一言だけ事例」は、「誰が、何を導入したか。そして効果に関する一言コメント」だけが記載されている事例です。これ以上の内容はありません。
一般的な事例でなく、一言だけ事例が作成される背景には、以下のような事情が(いずれか1つ、または両方)あると推察します。
- (1)(オラクルとして)事例作成予算がない
- (2) 顧客が事例作成に協力してくれない
- この場合、「一般的な事例」は作れないので、「一言だけ事例」を作成して、ホームページ上に掲載している。
通常、「予算がない」「協力してくれない」場合は、事例作成自体を諦めざるを得ない場合が多いですが、「ネームバリュー」や「導入製品または利用方法」の観点から高い価値があると判断した場合は、「一言だけ事例」としているのでしょう。
「事例取材は協力できません」と言われた場合でも、メールで100字程度のコメントを書くのであれば、負担は大きくありません。
この方法はある意味、苦肉の策ではあり、積極的に推奨できる内容ではありません。しかし、どうしても一般的な事例化は出来ないが、特にアピールしたい顧客や内容がある場合は有効です。
3.日本企業の事例が大半(だった)
2020年8月以前に作成された事例は、日本法人が作成したと思われる、日本企業の事例が大半となっています。
別なコラム「マイクロソフトの導入事例と戦略」でも紹介いたしましたが、おそらく日本法人に事例作成予算が割り振られており、現地法人主導の事例作成が推進されていたのだと推察できます。
残念ながら、2020年9月以降の事例は全て、グローバルで作成した海外企業事例の日本語訳のみとなっています。アメリカ版サイトでは引き続き多数の事例が作成されていることから、おそらく以下の事情があったと推察します。
- 1.現地法人のマーケティング予算削減から、事例作成が行えなくなった
- 2.事例作成を本社に集約し、日本語事例作成が滞った
おそらく、日本オラクルのマーケティング担当者、営業企画担当者からすると「事例作成に値する製品サービスの採用が多数あるのに、事例化出来ないのは悔しい」と思っているのではないでしょうか。
再び予算がついて、日本法人主導の事例作成が再開されることを祈っております。
4.詳細のフィルターを設け絞り込みを容易に
トップページから「最新の国内ユーザー事例」をクリックすると、事例をフィルターで検索しやすくなっています。具体的にはこのようなフィルターが備わっています。
- Solutions
- Industry
- Products
- アプリケーション、クラウド、データベース、ミドルウェアな
- Region
- APAC、EMEA-、JAPAN、North Americaなど
- Country
- Language
- Asset Type
- ケーススタディー、サクセスストーリー、カスタマービデオなど
- Company Size
- Revenue
- 1億ドル未満から500億ドル超を売上額ごとの刻みで選択可能
- Most Recent
- 今週、今月、過去6ヶ月、過去12ヶ月、過去18ヶ月、18ヶ月より前
このフィルター機能により、「特定製品の新機能が使われた事例がないかを探したい」「日本の金融業界での日本語事例だけを探したい」「移動中なので日本語のビデオ事例だけを探したい」といった検索ニーズを満たすことができます。
残念な点は、このページはオラクル本社管理のため、フィルターが全て英語で表示されている点です。英語が苦手な方はフィルターを使うのが手間取るかもしれません。
5.事例は7年で掲載終了
当社で2021年5月26日に確認した、オラクルの日本語事例件数は168件、そして最も古い事例は2014年5月29日でした。
これから推察するに、「事例掲載日から7年経過すると、自動的に非表示になる」設定がなされているようです。
古い事例の多くは、以下のような問題があります。
- 既に他の顧客に乗り換えており、現在は全く使っていない
- 製品の古いバージョンでの内容が掲載されている
- 現在利用していない製品が掲載されている
- 実情に即していない(既に利用方法、適用範囲などが変わっている)
- 提供しているソリューションが古い(現在ならよりよい方法を提示できる)
マーケティング担当者に「今後も掲載し続けたほうがよいか、どうか」という判断をさせず、「一律7年間掲載、以後非表示」とするのは、事例をフレッシュに保つ良い工夫です。